真鍮の止まり木

帰ってくるところ、飛び立つところ/初めての方はカテゴリーの「初めに」をどうぞ

凡庸な厭世感で身体が重い

 重い過去があるわけでもない、身を切り裂く程のトラウマを背負っているわけでもない。それでも、毎朝目覚めるたびに、ここに生存しているという現実に絶望する。

 

 2日程前に、「パニック症状」のような状態になった。集団に属していると、衆人から離れたい、逃げたい、透明になりたい、という感情で雁字搦めになる。そうなると、呼吸が荒くなり、体温が下がり、肌の感覚が遠ざかってゆく。これらは全て、兆候だ。

「逃げたい」。そう訴える自分から、私は逃れることができない。だから逃げ出した。愛想笑いもできなくなり、自分の声も身体も存在も何もかもが疎ましくなって、そうして、横切る突風のようにその場から離れ、独り帰路に着いた。

 自宅は良い。汚れていて、自分の髪の毛も散乱していて、洗濯物も沢山溜まっている。どこか空気が澱んでいる室内。それら全ての要素が合わさって自宅を形成している。私が私のためだけにつくった、憩いの場。

 帰宅。どんどん冷えてゆく身体を温めるために、半カップだけ果実酒を飲んで、蒲団に潜り込んだ。少量のアルコールで胃があったかくなって、終わらせたいという願いを成就させたくて、ぎゅっと目を瞑った。蒲団には自分の体臭が染み付いていた。その臭いを嗅ぎながら、

「眠りたい、逃げたい」

 それだけを考えていた。意識が飛んだあの瞬間も、きっと私はそんなことばかり考えていたのだろう。