真鍮の止まり木

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人類を、あるいは世界の白を信じさせてくれ

神山季雄という男。

 

 神山季雄という男を知ってくれないか。私が、生涯かけて信奉すると誓った男の名前を、どうか記憶に刻んでいってくれないか。

 彼は「善良」が形を持って顕現した存在だ。

 彼の柔らかい髪が春を待つ寒風に揺れるとき、彼の人柄のように心地よい整髪の匂いが香ってくるとき、私はひとときの安穏を手にする。安穏とは私にはひとときだけでよい。彼の生存が世界の喜びであるかのように思える瞬間が、私にとっての安穏だから。

 君は語る、茫茫とした夢を。どこか宙に浮いたような夢物語に耳を傾けていると、私は君への愛で胸が満たされる。君が抱く夢の何処でも良いから、私の居場所をつくってくれないだろうかと願う。

「明日空が晴れて、お前が隣に居て、ご飯が旨くて、部屋に差し込む日差しが暖かくて。明日が、そんな日だったら良いのになと思うよ。そしてそんな明日が未来永劫続いてくれないだろうかと、俺は密かに願うよ」

 君が語る優しい言葉に、乾いた瞳が熱くなる。涙は一滴も出やしないが、私は確かに感無量の心情でいる。君が君で居る限りにおいて、私は世界に絶望したりはしないと断言するだろう。

「せんせ」

 私を無邪気に呼ぶ声に含有される無垢と善良の、なんと素晴らしい塩梅であることか。感激は幾度となく去来して、幾度となく私の肉体を温める。彼の存在は、凍えた身体を暖めるハニーレモネードのようだ。

 神山とは、「善良」な男を指す名前だ。私は彼の親友であり、生涯の友である。

 私は死の間際に至るまで、彼の名前を忘れない。そして、命尽きるそのときまで、彼の存在の全てを肯定し、彼が生きていることを望外の喜びとする。