真鍮の止まり木

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変化の季節か

「幸せに手を伸ばせ」と激励されたら、そりゃもう私は立ち上がるしかないでしょう。春が来た、春が。

新しい出来事がやってくる。信じましょう、始めましょう。

そういう心持ちになったので、やってみます。

 

愛は常に能動的である。

愛したいなら、私が、自ら進んでそうならないといけないんだよな。

君を愛しているから明け渡した

神山季雄という男は私が考えた架空の男です。

キャラメイクするときは私は大体「このキャラは何の『イデア』か」を決めるようにしているんですが、彼は「許容・受容」の「イデア」として創作した男です。

ここで言っている「イデア」とは、キャラメイクをする上での「理想」を意味しており、私は大体、それぞれのキャラの「イデア」を指定したうえでそのキャラの生い立ち性格好み生活環境などを考えるようにしています。

 

神山ちゃんは、自分の好みの要素全振りで創った男なので、どうしても「好き」の気持ちが先行してしまって上手く説明しきれない。

そのうち、またブログで神山ちゃん×先生の小話を書きます。そこで二人の関係性を記述するようにします。

 

そろそろBLの話がしたいのだけれど、ここ何ヶ月もずっと脳内で創造した男と男の関係性にしか萌えを見い出せず、だから今何らかのBLについて語ろうと思うと、自ずと架空の男の話になるんですよね。

しかし、自分が生み出した架空の男と男でBL萌えやるの相当楽しいので、かなり長く続けていられるな。正直、ニコチンより依存度たけぇなって思うよ。

好ましいと望ましいの違い、もしくは現実と理想の溝

 「好きなタイプは?」と聞かれる。大体は、その質問の本意とは、「好きな異性のタイプは?」だ。

 詳しく答えるならば、私はこう答える。

「好きになりたいタイプは、男女問わず倫理観が合う人。が実際に私が特別に好きになる相手は、女性ならば仕事が出来る人、テキパキとタスクを片付ける人。過度に私を褒めそやすことは無いが、絶妙なタイミングで私の頑張りと成果を褒めてくれる人。イジり方が上手い人。そんな人に惚れる。男性ならば、顔と体型と声が好みな人、あんまり怖くない人が好き」

 いつも、ここまで言うことは無い。なぜなら、誰も「両性」に対する好みを聞きたいわけではないから。相手が知りたがっているのは、大体が私から見て「異性」に位置する人の「タイプ」だから。

 自分の好みなタイプの人ですら、説明するのが億劫な気分になる。私にとっては、留保に留保を重ねて、やっと説明できる話題なのだが、どうも相手にとっては「気楽な話題」としか捉えられていないようだ。

 

 他者とは永遠にわかり合えない。それはもう知っている。知っているが、それでも尚、私は他者とわかり合いたいのだと思う。相手と私の、重なる部分と重ならない部分の「範囲」を知りたいのだと思う。私のことを完全にわかってもらうことは不可能だ。同様に、私が誰かのことを完全に理解できることもまた、不可能だろう。

 それでも、私は、私のわかる範囲でいいから、相手のことを知りたいと思う。私ではない誰かのことを、理解し合いたいのだと思う。だって私は、「愛」を手にしたいから。「愛」のためには、相互理解、相互交渉を目的としたコミュニケーションが不可欠だから。

寝覚めの不確かさ

 目覚めたら正午で、ああ寝過ごしたのだなと自覚した。枕元にある、最新バージョンから幾分遅れた携帯には、三件の不在着信が届けられていた。宛先はどれも同一人物からであった。

 「菊人さん」

 自らの能動的性欲のおおよそ全てが向かう対象を指して、聖也はその名前を口に出してみた。愛おしくて、憎らしくて、なぜか少し泣きたい気持ちになった。続けて漏れた呼吸からは、昨日に摂取したアルコールの臭いがした。鼻につく、不快な臭いだった。

 室内には自分の他には誰もいなかった。

 白を基調とした、落ち着いた印象の部屋。本棚も整理整頓されており、床には紙一枚すら存在しない。白色のレースカーテンからは、柔い光が差し込み、部屋を薄く照らしている。そんな場所なのに、ベッドだけがどぎついピンク色をしていた。そんな場所で眠っていた自分もまた、周りの景色からは浮いていた。

 さて、一体此処は誰の家であろうか。覚醒してきた頭で、今居る所が実家の自室でも無ければ、知人友人各関係者の家でも無いということを理解していた。昨夜の記憶が曖昧な聖也にとっては、「此処が何処なのか」という問いへの答えは久遠の謎に思えた。

 ベッドの傍に投げ捨ててあった鞄から水の入ったペットボトルを取り出し、温くて古くなった水を飲んだ。三度喉を鳴らして飲み干した後、聖也は電話をかける。宛先は、先程口に出した相手。

 規則的な呼び出し音が鳴り止むと、麗しい声が彼の名を呼んだ。

「もしもし、聖也ですか?」

「おはよう、菊人さん……。ごめん、今起きたとこ」

「そうなのですね、良いのですよ、構いません。ですが、今どちらにいらっしゃるのですか。家にかけたのですが、貴方は昨日から帰って来ていないと言われて……」

「……ああ、そうだね、此処は何処なんだろうね」

「え?」

「いえ、何でもありません。ともかく、すぐに家に帰れる状況にないので、申し訳ないのですが、今日の予定はキャンセルさせて下さい」

「良いのですよ。出掛けるのはいつでも出来ますし。また、今度、ということにしましょう」

「本当に、ごめん。この埋め合わせは必ずするから」

「気にしないで下さい。何処であろうと、貴方がゆっくり休養できているのならば、それだけで私は喜ばしいと思うのですから」

 ふんわりと許容されてしまい、それ以上謝罪を続けることもできなくなってしまった。最後にもう一度だけ、「ごめん」を重ねて、聖也は静かに通話を切った。

 再度見渡してみても、やはり見覚えはない。どんな人物が住んでいるのか、昨日、どのような経緯で自分が此処に来ることになったのか。判別できない疑問がいくつも脳裏に浮かんだ。

凡庸な厭世感で身体が重い

 重い過去があるわけでもない、身を切り裂く程のトラウマを背負っているわけでもない。それでも、毎朝目覚めるたびに、ここに生存しているという現実に絶望する。

 

 2日程前に、「パニック症状」のような状態になった。集団に属していると、衆人から離れたい、逃げたい、透明になりたい、という感情で雁字搦めになる。そうなると、呼吸が荒くなり、体温が下がり、肌の感覚が遠ざかってゆく。これらは全て、兆候だ。

「逃げたい」。そう訴える自分から、私は逃れることができない。だから逃げ出した。愛想笑いもできなくなり、自分の声も身体も存在も何もかもが疎ましくなって、そうして、横切る突風のようにその場から離れ、独り帰路に着いた。

 自宅は良い。汚れていて、自分の髪の毛も散乱していて、洗濯物も沢山溜まっている。どこか空気が澱んでいる室内。それら全ての要素が合わさって自宅を形成している。私が私のためだけにつくった、憩いの場。

 帰宅。どんどん冷えてゆく身体を温めるために、半カップだけ果実酒を飲んで、蒲団に潜り込んだ。少量のアルコールで胃があったかくなって、終わらせたいという願いを成就させたくて、ぎゅっと目を瞑った。蒲団には自分の体臭が染み付いていた。その臭いを嗅ぎながら、

「眠りたい、逃げたい」

 それだけを考えていた。意識が飛んだあの瞬間も、きっと私はそんなことばかり考えていたのだろう。

馬鹿でも良い格好しいでも何でも良いから生活続けようぜ

 ぱかぱか煙草を吸ったら頭がすっと冷えて、その瞬間だけは冷静な自分、のような存在になれている気がする。

 

 「頼る人を見つけろ」「他人のことばかり思いやりすぎるな」と、大雑把にはそういうことを友人から言われた。有り難い忠告と提案をもらった。

 人に甘えたいんですよね、駄目でみっともない自分を曝け出して、そして、許容されたい。強い欲求がある。けれど同時に、「もし自己を余すところなく曝け出したとして、その先に待つのが否定と拒絶であったら、私はどうしたら良いのだろうか」と悪い想定をしてしまう。大切な人達から否定されることに怯える。

 「重いこと」「じめじめしていること」「みっともないこと」を人から指摘されるのが、怖い、嫌だ。小心者で、できる限り自分が傷つきたくないから他者も出来得る限りで傷つけないようにしようとしている。そんなやり方は、保身と打算から来る「防衛術」でしかない。そういう理由で行う行動を、私は、汚いものだ、と考えている。

 こういう考え方こそ、唾棄すべきなのかもしれない。

 今のままで受け入れられたいという甘えをあやしてやりながら、今の自分から変わりたいのだ、という痛ましい夢を持ち続ける。そうやって生きていくしかないのだ、と今は思う。

先生僕を*してくれ

 僕にとってのささやかな「祈り」とは、先生の自室で毎朝目覚めることであった。古書の匂いに満ちた先生の寝具に身を沈め、安心の中で守られているのだと実感できるとき、確かに僕は生きているのだと知った。

 生きている、それゆえ私は此処に居てもいい。何の取り柄が無くとも、罪深い存在であろうとも。誰かの人生を損ねてしまっていたとしても。

 快いルーティンを思い返す度に、始まりの記憶が断片的に蘇る。割れたステンドグラスが床一面に散らばっている様を想像する。乱反射した光が、僕を付け狙っているかのようだ。

 清々しい明け方には必ず、深い悲しみの夜が付随する。僕にも、そんな夜があった。ああ、生涯忘れられないだろう、あの夜のことを。独り泣き濡れて、己の存在の疎ましさに耐えきれず、私は何度も何度も喉元を掻き毟った。爪先は赤黒い皮膚で汚れていた。それなのに先生は、僕の汚い手に、何も言わずに触れてくれた。

「君は君の器が解らないのだね」

「僕の器とは、一体何なのでしょうか」

「それは、『君』という名で型どられた大衆化された自己のことだ。『君』という形骸の記号的意味合いのことだ」

「よく、判りません」

「大丈夫、何の心配も要らないよ。私が、全て教えよう」

 隙間からするりと入り込む知性の声を僕の身体はすんなりと受け入れた。そして大きく震えた。ああ、思いを傾ける「偶像」は、ここに在ったのだ。僕は完全に理解し、触れてきた先生の手を、ぎゅっと強く握り締めた。

「お願いします」

 それは必然性と呼ぶべき帰結であったと断言できる。僕と先生は確約を交わしたのだ。先生は僕に、「何者」かになる方法を教授してくれると言った。そんなことを言ってくれたのは、彼だけだった。その日、先生は僕にとっての唯一無二の人となったのだ。